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ダン・シモンズ「夜更けのエントロピー」



ダン・シモンズ「夜更けのエントロピー」

河出書房新社の奇想コレクションの第一弾が
本書「夜更けのエントロピー」です。
実はこの本がダン・シモンズ初体験となりました。
「ハイペリオン」「夜の子供たち」「エンディミオン」など
タイトルだけは知ってるんですけど……。
まあ、それはともかく、私にとっての初シモンズは、
なんというか不思議な感触を残すことになりました。
いくつかの作品に関しては、
「さあ、このグロテスクさの極みの果てのオレの奇想におどろけ」
的なあざとさがあるんですが、
よく考えたら、
「奇想」コレクションですからねー。

「黄泉の川が逆流する」
大好きな母の葬儀が終って母の棺が埋葬されると、ぼくたちは家に帰った。
そして母の帰りをみんなで待っていた。
ウィルおじさんは父の決断を認めなかった。
その頃は、世間の「復活主義者」への風あたりが強かったのだ…。
シモンズの処女短編なのだそうです。
うん、これはとても面白かったです。
ホラーチックなゾンビ話とはまったく別ものの、死体復活の技術。
そしてじわじわと壊れていく家族の姿が淡々と描かれます。
ラストは背筋がぞくっとするような……。

「ベトナムランド優待券」
ベトナム戦争をレジャー化させた「ベトナム・ランド」。
水田の上を飛びながら銃をかまえたり、道端でくりひろげられる戦いに、
ガイドに従いながら参加できる。
ジャスティン・ジェフリーズはこのツアーに家族で参加していた。
妻と幼い二人の子供と、
かつてベトナム戦争に従事したことのある妻の父と共に…。
なんというか、とてもアメリカ的な作品ですね。
いつかアメリカに世界中がひれふすような設定と思うのは穿ちすぎかな?
過去の戦争をレジャーとして切売りするという設定じたいが既に怖いです。

「ドラキュラの子供たち」
チャウシェスク政権の終了直後のルーマニアを訪れた国際アセスメント派遣団。
ハロルド・ウィンストン・パーマーも
そのメンバーの一人としてルーマニアを訪れた。
そこで次々と見せられるチャウシェスクの暴政の傷跡。
うはっ。
ここに描かれた悲惨なまでの惨状は、事実なんでしょうか?
その恐るべきHIV患者の子供たちの姿の前には、
この作品の落ちもかすんでしまいます。

「夜更けのエントロピー」
別れた妻が引き取った娘と何ヶ月かぶりで会い、
スキー・リゾートへ一緒にやってきている主人公。
ベトナム帰りの保険調査員の男の記憶をなぞるように、
スキー・リゾートでの父子の姿と男の過去の出来事、
そしてオレンジ・ファイルと名付けられている
自動車事故の事例がコラージュされる。
短編集を読んでいて、割とよくあることなんだけど、
実は表題作が一番その良さがわからなかったりします。
そう、この「夜更けのエントロピー」も、
なんだかどう扱っていいのかわからないんです。
読んでる最中は、
ずっとアーヴィングの「ガープの世界」を思い出してました。

「ケリー・バートンを探して」
高校教師だった男は、車ごと縦坑へ突っ込んで自殺を企てる。
しかし彼は死なず、
かつての教え子ケリー・ダールによって、
不可思議なゲームへと誘い込まれるのだった。
「夜更けのエントロピー」とちょっと似た感触。
幻想的なタッチなんだけど、
ケリー・ダールという少女の姿が鮮やかでなかなか面白かったです。

「最後のクラス写真」
「大苦難」に見舞われ、変容した世界。
死んだ子供たちを外敵から守りながらギース先生の授業はつづく……。
日常、というのが、
こんなにも狂って見えるなんてと思わずに入られません。
え?え?どういうこと?何が起こってるの?と思いながら、
次第にわかり始めてくるギース先生を取り巻く世界の状況。
ひゃ~、そうなのね、とひっくり返りそうになってしまいました。
本書中でこの作品と「黄泉の川が逆流する」 が好きです。

「バンコクに死す」
20年ぶりにバンコクへ訪れた「わたし」は
マーラと呼ばれていた女とその娘を探していた。
それは20年前、
ベトナム戦争でこの地へ来ていた「わたし」とトレーの身の上に
起こった出来事が始まりだったのだ。
ジャングルで精神と命をすり減らす兵士たちの息抜きの時間、
R&Rと呼ばれるバンコクの街での安いドラッグと女遊びの短い日々。
そこにマーラはいたのだった。
インド神話の悪鬼を現代に蘇らせたホラー作品。
これでもかというエグさに、
ついうっかりそのラストの印象が薄れてしまいました。
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 2016_10_10


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