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ヴァレリー・ラルボー「幼なごころ」



ヴァレリー・ラルボー「幼なごころ」





ヴァレリー・ラルボー「幼なごころ」
岩波文庫

20世紀初頭、
フランスの作家ヴァレリー・ラルボーによって書かれた
子供を描いた作品だけを集めた短編集です。
作家に愛される作家だった、
ということですが、読んで納得。
もう、
なんとも魅力的な文章と細やかな視線の届き具合、
ひそやかに、
長く愛される短編集ではないかと思われます。

この短編集に収められているのは、
8歳から14歳までの少年少女を描いた8つの短編と2つの補遺。
「幼なごころ」というなんとなく甘ったるいタイトルなのだけれど、
甘さだけの漂う物語などないんです。
8歳から14歳、
この本当に「幼い」と言える時期でもなく、
かといって
大人の世界に一歩足を踏み出した
と言えるほどの年齢にもなっていない微妙な時期の子供。
彼らのひたむきさ、残酷さ、
豊かな想像力、独善さが、
こう、
胸にぎゅーっと来るというか……。
ノスタルジックに浸る
という言葉ではちょっと言い表せないような
深い印象を残してくれます。
気楽な気持で
子供時代の甘酸っぱさに浸れるかなぁなんて考えてると、
まず最初の一編で驚かされること請け合いです。
少なくとも私はそうでした。
はい。

ちょっと長くなりますが、
特に気に入った5編を紹介しておきます。

「ローズ・ルルダン」
田舎の寄宿学校で出会った一つ年長の少女ローザ・ケスレル。
ローズ・ルルダンは、
美しく、すこし不良がかった気高さのあるこの少女を崇拝していた。
それはひそかにではあるけれど、
息苦しいほどに真剣な思いだった。

12歳の少女の抱く上級生の少女への恋心を、
ローズ・ルルダン自身が語る物語。
ですます調の丁寧な言葉が
なんだか戦前の少女小説のような時代がかった雰囲気ですが、
これが読んでいて落ち着かない気持になるほどに
ぴたっとはまってるんですよね。
幼い自我のめばえの甘さと苦さが、
ですます調の口調のかもし出す
危うい緊張感にのせて描かれていました。
生々しさの一歩、
いや半歩手前の描写にくらくらしてしまいます。

「包丁」
スピナスの祖母の邸宅で夏の休暇を過すラビー家。
もうすぐ8歳になるエミール・ラビーは
周囲の大人から甘やかされた上流家庭の小さな可愛らしい暴君だった。
そしてエミールは
そんな大人たちの自分への態度に苛立っているのだ。
祖母の可愛がっている12歳の使用人の少女ジュリアは、
大人たちの前ではエミールにかしずいているように見せかけて、
巧妙にエミールを苛めていたが、
エミールは彼女に唯々諾々と従ってしまう。
そんなある日、
農場に新しくジュスティーヌという11歳の少女が入ってくる。
ジュリアは、
腕に包丁の傷がある、
身も心も傷ついている私生児ジュスティーヌを
苛めて楽しもうと持ちかける。
確かに彼女の腕には傷跡があるのをエミールはみとめた。

なんとも切なさのこみ上げてくる作品でした。
エミールの、
子供っぽいけれども真摯な苛立ちが、
非常にリアルな感じがします。
ラルボー自身の少年時代の記憶が強く反映された作品なのだそうですが、
確かにこのひたむきながら
どこか破綻したエミールの自我というのは、
単なる想像だけでは生み出せないリアルさがあります。

ジュリアの邪悪さが、
またその年頃の少女ならではの残酷さという気がします。
落ち着かない緊張感が破られるラストがまた印象的でした。

「ドリー」
ドロシー・ジャクソンは
「私」がフランス語を教えていた少女だった。
彼女は12歳でこの世を去った。
病み衰えて部屋に籠り、
幼い老婆のようなドリーに
「私」は、
彼女の友達になればとエルシーという少女を紹介することにした。

これもさりげない小品なのだけど、
ハッとするほど残酷な物語。
悪い子は出てこないのに、
とても残酷なの。

<偉大な時代>
マルセル、アルチュール、フランソワーズという三人の英雄が、
偉大にしてかくれなき大事業を成し遂げたのは、
去年のことだった。
それは屋敷内を張り巡らした大鉄道時代であった。

次の休暇には鉄道熱は冷め、彼らは新たな計画を立てた。
無人島を探すのだ。
無人島から王国の行政が整備され、
やがて
フランソワーズ女王の横暴に腹を立てた二人の大将たちの反逆が始まる。
そして領土は三分割され、三人の君主が生まれ、
はてのない領土争いと新大陸発見の時代が続く。

ある日、マルセルは、
遠征の途次に二人の少女と出会う。
赤毛の美しい姉妹は、
マルセルの父が経営する工場に新しく入った工員の娘たちだった。

うーん、
これはすごかったです。
子供たちのごっこ遊びなんだけど、
この描写が凄いんです。
彼らの一切手抜きのない姿勢と豊かな想像力によって、
この無人島から始まる三つの君主国の領土争いが
実に圧倒的な緻密さで描かれていくの。
もちろん前時代の大鉄道時代についても。

この偉大な戦争時代の中に
ちらちらと挟みこまれるマルセルの現実世界。
ラストは衝撃的な苦味を持って、
幼なごころの日々の終りを告げてます。

うん、
この短編集の中で核を為す凄い作品ですね、これは。

「ラシェル・フリュティジェール」
かつて母がジュネーヴで過した学校時代のこと。
それを話してくれた時は、
自分の知っている母が、
他の婦人たちと散歩している様子しか思い浮かばなかった。
母の学校時代、
それは母の少女時代だったということがわからなかったのだ。

母と母の妹は、
貴族的な学校へ通う二人のフランス娘だった。
祖父が授業料を滞納してしまうので、
二人のフランス娘の立場はかなり厳しいものだった。

不思議な雰囲気の漂う作品でしたね。
ほわ~っと物悲しく、ほわ~っと優しい。
自分自身の、
ではなく母親の思い出をなぞるものだから、
そういう雰囲気になるのかもしれませんね。
てくてくと黙って、
さして悲壮な感じでもなく歩いていく二人の少女の姿が
なんだか目に浮かぶようでした。

この短編集に収められたいくつもの幼なごころは、
安寧な家庭に収まっているのでも、
規律正しい学校に守られているのでもないのですね。
彼らの幼なごころが生きているのは、
彼らの幼い魂の中だけなのかもしれません。
他人が触れたくても触れることの出来ないもの。
それを見事に書きあらわして見せた
ラルボーの「幼なごころ」、
忘れようにも忘れられない作品となりそうです。
(2005年6月10日)
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 2015_03_17


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