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ジョー・ウォルトン「アゴールニンズ」
早川書房

ボン・アゴールニン啖爵は、死の床についていた。
その側についているボンの長男で教区牧師のペンは、
思いがけない言葉を父から聞かされておどろく。
死ぬ前に懺悔したい、告解を聴いて欲しいというのだ。
それは異端な人間どもの征服時代の悪しき名残であり、
今や聖職者の飛行と同じぐらい教会から強く非難される罪だった。
しかし、ペンは結局父の告解を聴き、免罪を与えた。
しばらくの間ペンはショック状態にあり、
父の死も、己の教会への背信行為への罪悪感も何も感じなかった。

ボン・アゴールニン啖爵の死に際して、
家族たちが集まっていた。
生き残ったボンの子は、
デヴラク士爵に嫁いだ長女ペレンドと、
イリエスの都で役人をしている次男のエイヴァン、
まだ未婚の年頃の二人の娘セレンドラとヘイナーだった。
彼らのほか部屋にいたは
ペレンドの夫デヴラク士爵と三人の子竜たち、
そしてこの地の教区牧師のフレルト師だった。

ボン・アゴールニン啖爵の死は、
その財産分与について小さな口論と、遺恨を残す結果を引き起こした。
ボンの地所や黄金などについては、
前もって老アゴールニン啖爵の意志が伝えられており、
大きな混乱を招くことはなかった。
しかしそれら以上に大切な
ボン・アゴールニン啖爵の遺骸の配分については大問題だった。
そう、彼らドラゴンたちにとって、
同じドラゴンの肉を食べるというのは、
黄金にも勝る、大きな力を得るための大切なことなのだ。
遺骸、つまり肉は黄金と同じ扱いで、
未婚の若いドラゴン三人に分け与えるのか、
肉だけは別で、
他の遺産分与権を持つドラゴンたちにも公平に分けられるのか。
ボン・アゴールニン啖爵の遺児たちは、
前者を主張したが、長女の夫デヴラク士爵は後者を主張した。
そして、半ば押し切るように、
彼ら家族で父の肉の半分を食い尽くしてしまったのだった。

面白かった~。
ヴィクトリア朝を思わせる波乱万丈の物語、
でも大きく違うのは、
彼らは人間ではなくドラゴンだったのです。ふふ。

まず説明をしておくと、
啖爵というのは、
人間世界で言うところの男爵に準ずるもので、
爵位としては一番下。
ボンの遺児たちも、父親をぽっと出の成金のごとくに扱われます。
士爵というのはそれより一つ上の爵位、
それより上は順に珀爵、蛟爵、甲爵と登っていくようです。

さて、若きドラゴン娘のセレンドラとヘイナーは、
父の死後それぞれ
長男ペンの元とデヴラク士爵の元へ身を寄せることになります。
ペンの元へ身を寄せたセレンドラは、
兄の雇い主でもある珀爵夫人の一人息子のシャーと身分違いの恋におち、
デヴラク士爵の元に身を寄せたヘイナーは、
この義理の兄の冷血ぶりに、
いつか生きたまま食われるのではないかと恐怖に怯えることに……。
義理の兄のあまりな狼藉に対して怒りの収まらないエイヴァンは、
なんと彼を裁判で訴えることにするのだけども、
コレがどう見ても金銭的にも身分的にも勝ち目がなさそうだったりして。

恋あり、訴訟あり、
貴族のプライドあり、冒険あり、宗教問題ありと、
お楽しみもりだくさんの物語で、
それこそヴィクトリア朝を舞台にした大河小説のごとき面白さなんです。
ドラゴンならではの様々な生態や慣習も面白いし、
何より人間くさいドタバタ劇がなんともいえません。
(2005年7月25日)

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 2016_02_25




ヤン・マーテル「パイの物語」
竹書房

インドのマドラスからカナダのモントリオールへと
出航した日本の貨物船ツシマ丸は、
太平洋上で沈没した。
この事故から生還できた人間は、たった一人。
16歳のパイ・ペテルただ一人だった。
第一章、
物語はインドの動物園経営者の次男、
ピシン・モリトール・ペテルの、
幼少時代から、家族でカナダに移住するために旅立つまでが描かれている。
パイはピシンのニックネーム。
そして、第二章は、
沈没した船から救命ボートに投げ出され、
たった一人で海上を漂ったパイの驚くべき227日間が描かれる。
いや、救命ボートに乗り込んでいたのはパイだけではなかった。
ベンガルトラ、ハイエナ、オランウータン、
ネズミ、ゴキブリ、ハエ。
それが最初のボートに乗り込んでいた全部だったのだ。

いや、すごい作品でした。
面白かった~の一言では言い足りないぐらい。
奇想天外にしてこのリアリティは何だろう?
息詰まるパイの漂流生活の迫力に、
ただただ夢中になって読みふけってしまいました。
ああ、これ以上何か書くと、
これからこの本を読む人が得るはずの
さまざまな衝撃を殺いでしまいそうなので、
何も書けそうもありません。

パイが無事メキシコへたどり着いた後の
第三章の最後の一ページまで目が話せない、
と書いておきます。
少年が沈没船から生き延び、長い奇跡の漂流生活を経て、
最後はめでたしめでたしの感動もの、
なんて思ってると手ひどいしっぺ返しを食らうような
大人だましの作品。
ブッカー賞受賞も大きく首を振って頷けるというもんです。
(2005年4月16日)

 2016_02_24




エリック・マコーマック「パラダイス・モーテル」
東京創元社

うーん、面白かったです。
日本では、マコーマックの処女作「隠し部屋を査察して」の方が、
この「パラダイス・モーテル」の後で出版されたようですが、
私は先に「隠し部屋を~」を読んだのが、
ある意味とてもラッキーでした。
より楽しめた、という感じでしょうか。
と言うのも、
この長編「パラダイス・モーテル」の中には、
短篇集「隠し部屋を~」のエッセンスが
はっきりと分る形で織り込まれてる面白さがあるからなんですよ。
この捩じくれたユーモアは、
短篇集を先に読んだほうが単純に楽しめるんじゃないかな……
なんて思います。
ラストの展開も、この捩れ具合ならばアリ、と思いました。

さて、あらすじなんですが、
まず、プロローグで、
一人の男がパラダイス・モーテルのバルコニーで海を眺めています。
彼の名前はエズラ・スティーヴンソン。
この物語の語り手です。
海を眺めながら「わたし」(エズラ)は、
幼い頃、一週間だけ一緒に過した祖父が語った
パタゴニアのある物語について思い出し、思いをはせます。
それは、ある町で外科医が妻を殺害し、
その体をバラバラにして手足を四人の子供たちの体の中に埋め込んだ
という話で、
それを祖父は当の子供の一人だった男から聞いたというものなのでした。
あの四人の子供はあれからどうなっただろう……。
「わたし」は調べて見ることにしたのでした。

このエピソード、
実は短篇集「隠し部屋を~」に収録されている
「パタゴニアの悲しい物語」のエピソードなんですよね。
あと、作中に出てくる小説の題材も、
実は短篇集に収録されている短篇を思わせるものだったりして。
随所にニヤニヤさせられるところがあって、
こういうメタ・フィクションというか馬鹿話ならば、
ああいうひっくり返りそうになるラストもアリ、
と重ねて強調したくなったりして。
作中の言葉
「それが人生というものだ。小説のふりをしたひと握りの短篇というやつが」
これが「パラダイス・モーテル」。
(2002年12月20日)

 2015_10_16




エリック・マコーマック「隠し部屋を査察して」
東京創元社

うう~ん、めちゃめちゃ面白かったです。
奇妙で歪で、どこか端正さを失わない短編集、
という感じがしましたね。

表題作は、
謎の国家、峡谷のへりのフィヨルドに建てられた建物の地下にある、
「想像力の罪」で拘留された者たちがむせび泣く
「隠し部屋」を査察するのが仕事だとういう男の話。
人工の森に人工の動物を創造した男、
独特の動きをするギロチンを発明し、
動物、人間をその刃にかけた天才発明家、
呪文を操る魔女だと告発され、その法廷で、
口からウツボやピストル花崗岩の彫刻、羊皮紙などを吐きつづけ、
そのピストルで判事を撃った女など
6人の「隠し部屋」の住人たちの素性の奇妙さ、
この国家の得体の知れない恐ろしさもさることながら、
荒涼とした土地のイメージがきっちり出てて、
この短編集の最初っから ノックダウン状態でした。

他の作品も、どれもよかったですね。
多分簡単なあらすじをと言葉にすると、
えぐいエピソードのてんこもりになりそうなんだけど、
実際読んでると、「えぐすぎ~~」と思わないから不思議。
(2002年3月28日)

 2015_10_15




マーガレット・アトウッド「寝盗る女」
彩流社

うん、読ませる本でした。

上下巻で、一冊ずつも結構な分量、しかも作者はアトウッド、
となるとこりゃかなりこってりと、
と期待しちゃいましたが、
いやいや堪能させていただきました。

物語はトニーという女性による、
ズィーニアという女性への回想から始まります。
このトニーと、カリスとロズという女性三人が、主役なんですよね。

大学時代からの知り合いの女
ズィーニアと関わることで人生がおかしくなってしまった三人の女たち。
彼女たちに手ひどい痛手を負わせて目の前からするりと消え、
そしてレバノンでテロに巻き込まれて死んだというズィーニア。
この三人プラス一人の濃い物語がこの「寝盗る女」なんです。

寝盗る女、それはズィーニアのこと。
鮮やかに、そしてあっさりと女たちの夫や愛人を奪って、
そしてあっさりと袖にした女。
彼女の葬儀にも出席した三人ですが、
未だその痛みは薄らぐことがないわけ。

寝盗られた事がきっかけで友情をはぐくんだ女たちが、
ある日目にしたのは、死んだはずのズィーニアの姿……。

三人それぞれの体験と視点から描かれるズィーニア像は、
かなりキツイものがありますね。
作中に登場するほぼ9割ぐらいの「ズィーニア」が、
生身の彼女ではなく、
寝盗られ女たちのフィルターを通した「ズィーニア」だから
当たり前なんだけど。

だから、余計に、ズィーニアの生の姿はどうなんだろうと、
スリルたっぷりに読み進めました。

それにしても、アトウッドの筆力は圧巻という感じがしましたねぇ。
はっきり言って、糞みたいなダメ男と、
エキセントリックで実際魅力あんのか?って女しか登場しないのに、
読んでる間全然嫌な感じがしないんだもん。
なんか現実離れした話なのに、妙なリアル感があるし。

三人のそれぞれの話に登場するズィーニアも、
冷静になって読むと、
え~っ、そこまで怖がる女か?ってぐらい、
せこい努力の積み重ねが見え隠れするんですよねぇ。
安い駆け引き、だまされた本人以外にはバレバレな嘘、
ささやかな整形。
しかも寝盗る対象が、これまた安い馬鹿男ばっかり……。
なんで三人の心の底に
ここまでの稀代の悪女として君臨しつづけてられたのか分からないぐらい。
ある意味怖いよ~。妄想っぽくて。

女同士の力関係とかが、あっさりとした筆致ながら、
じわっとにじみ出てるところも旨いな~って思いました。
いやー、面白かったです。
(2003年6月32日)

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